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千葉地方裁判所 昭和32年(モ)350号 判決 1958年5月15日

債権者 有限会社 轟倉庫

債務者 国

訴訟代理人 越智伝 外二名

主文

債権者と債務者との間の当庁昭和三二年(ヨ)第八二号競争入札手続停止仮処分命令申請事件につき当裁判所が昭和三二年八月八日なした仮処分決定を取消す。

本件仮処分申請を却下する。

訴訟費用は債権者の負担とする。

この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

債権者訴訟代理人は主文掲記の仮処分決定を認可する。訴訟費用は債務者の負担とするとの判決を求め其の理由として(一)本件仮処分決定の目的物件たる千葉市轟町一番地所在土地四七七坪二合五勺、及びその地上所在の建物一一六坪五合二勺は旧鉄道第一連隊機関車修理工場跡で、戦災を受け朽廃しつつあつた木骨の間口七間奥行約一七間の建物及びその所在土地であつたところ訴外合資会社太養糧食研究所(代表者中原美幸)が昭和二五年一二月一日債務者から借受け、その同意承諾のもとに費用合計一、一七五、四〇〇円を支出して埋立を為し屋根、障壁その他を修復し倉庫に造り直した。而して右研究所は右建物において倉庫業を営んでいた。然るに右研究所は製粉製麺等食糧品の加工等を目的として設立された会社であり尚右研究所代表者中原美幸は金融営業を目的とする訴外協栄商事株式会社の代表取締役をも兼ねていたので、千葉財務部係官(即ち国)は昭和二七年九月頃中原美幸に対し倉庫業一本に専念せよと忠告し且その設立手続を教えたので、これに基き右両会社を合併して昭和二八年三月一二日債権者会社を新設し、所謂新設合併が行われたのである。しかしし法律の規定上株式会社組織と為さざるべからざるを有限会社として設立し、法律上の過誤を犯し今にわかにこれを是正し得ないので形式上乃至法律上は包括承継ありと云うを得ないのであるが、実質的には債権者において合資会社太養糧食研究所の地位をそのまま承継した(二)よつて債権者は事実上の前身たる合資会社太養糧食研究所の本件物件に対する借受人たる地位を承継し昭和二八年四月一日債務者から本件土地建物を期間を定めず、従つて法により三〇年間借受け倉庫として使用して来り、現にこれを占有するものである。右賃貸借における料金とその支払期は債務者の指定により定める約で、現実には債務者から債権者に対し賃料とその納期を指定したる納入告知書が発せられ、それによつて支払つて来たのである。而して昭和二八年度(昭和二八年四月一日から同二九年三月三一日まで)昭和二九年度(昭和二九年四月一日から同三〇年三月三一日まで)は各年額六九、三〇〇円で支払ずみであり、昭和三〇年度昭和三一年度は納入告知書未着につき未支払である。(三)債権者は本件土地建物につき上記(一)(二)のような縁故関係があつたので、債権者は債務者から昭和三一年四月頃から、その払下げ方の勧奨を受けていたが遂にその申請書を提出するにおいては直に払下ぐべき旨の指示があつたので、昭和三二年四月一五日債務者に宛て本件物件の売払い申請書を提出した。而して該申請書には指示の形式に従い払下げ代金は官の指示に従う旨記載したが、その際口約でその払下げ代金を金一、二〇〇、〇〇〇円と協定したのであつて、右口約と右申請書提出により同日随意契約に因る売買契約が債権者債務者間に有効に成立したのである。よつて債権者は債務者に対し本件物件の所有権移転登記請求の権利を有するものである(四)仮りに右権利が認められないとしても、債務者は債権者から売払申請書受理後なる昭和三二年五月一八日本件物件を競争入札に附し、訴外小出増雄をして金一、七二八、〇〇〇円で落札せしめたのであるが、国の不動産競争入札において特別の規定のない限り、条理上民事訴訟法不動産強制競売法の法意が参酌さるべきである。然るに右競争入札の前日二七日の本件物件の下見において債務者は債権者を欺き、本件物件の修理に金一、一七〇、〇〇〇円余の多額の費用を要し、その為め増加した価格が現存しているのに競争入札希望者に公開せしめずして翌二八日入札せしめたものであつて民事訴訟法第六五八条第六七二条第六七四条等の法意に照らし無効の入札手続であるから、債権者においてこれが無効の裁判を求める権利があると述べ、

債務者代理人は主文第一乃至第三項同旨の判決並びに第一項に限り仮執行の宣言を求める旨申立て答弁として債権者主張事実中、債権者が本件物件を占有していること、債務者が本件物件を訴外合資会社太養糧食研究所に対し昭和二五年一二月一日から同二七年三月三一日まで一時貸付をしたこと、債権者が昭和三二年四月一五日附で本件物件の売払申請書を債務者に提出したこと、並びに債務者が本件物件を昭和三二年五月二八日一般競争入札に付し、訴外小出増雄が一、七二八、〇〇〇円で競落したことは認めるが、その余は全部否認する。(一)本件物件を訴外合資会社太養糧食研究所に貸付中、同研究所においてその使用のため必要な限度において本件土地を整理し、本件建物に多少の修理をしたことはあるかも知れないが、その費用が合計一、一七五、四〇〇円であることは否認する。のみならず両者間の貸付契約においては本件物件に対し保存利用改良その他の行為をなすために支出する経費は賃借人の負担とし、これによつて賃借物件の価格を増加することがあつても賃借人はその増加額について国に対して何等の要求をしない定めになつているのである。(二)本件物件については昭和二九年五月一日から同三〇年三月三一日まで債務者と訴外関東倉庫株式会社の間に貸付契約が存し、同会社が使用していたのであるから同期間内更に債務者国がこれを債権者に貸付けると云うことはない、にもかかわらず債権者は昭和三〇年四月頃から本件物件を不法に占有しているのである(三)債権者から昭和三二年四月十五日付の本件物件売払申請書が提出されたが、同申請は同年六月七日付にて債務者において却下したのである。債権者と訴外太養糧食研究所とは法人格上何等の関係もなく債務者は債権者に本件物件を貸付けた事実がなくその他債権者において随意契約により本件物件の払下げを受け得るような事由はないから債務者から本件物件の払下申請を勧奨した事実はない(四)債権者が債務者に対し有益費の償還請求権を有しないことは前に(一)において述べた通りである。なお会計法による一般競争入札に民事訴訟法の不動産強制競売手続の法理を適用すべき理由はない。以上の如く債権者が本件物件の所有権を取得したという事実はなく、その他本件仮処分決定を維持すべき被保全権利は存在しないから、右決定は取消すべきであると述べた。

疏明<省略>

理由

よつて先づ債権者が昭和三二年四月一五日債務者との随意契約により本件物件の所有権を取得したかどうかにつき按ずるに債権者会社代表者中原美幸本人は右債権者の主張に合うが如き供述をするが、その際予算決算及び会計令第六八条第七〇条により作成することを要する契約書の作成がなかつたこと、並びにその後同年同月二八日債務者が本件物件を競争入札に付したのに対し債権者が一、三五〇、〇〇〇円の価額を以て入札をしていること(以上は債権者会社代表者中原美幸本人尋問の結果により疏明がある)に照らして右供述はこれを採用することが出来ず、その他の証拠によつては右債権者主張事実は一応も認めることが出来ない。

次に訴外太養糧食研究所が債務者から昭和二五年一二月一日から同二七年三月三一日まで本件物件を借受けたことは当事者間に争がなく、その間に右研究所が本件物件の大修繕のため多額の金員を支出したこと、債権者が右研究所から右修繕費償還請求権の譲渡を受けたこと並びに千葉財務部長が昭和二九年五月頃右債権譲渡を承認していたことについては債権者会社代表者中原美幸本人尋問の結果と右により成立の疏明せられる甲第一号証の五を綜合して一応認めることが出来、成立に争のない乙第二号証の二の第五項は前記の如く大修繕のため多額の費用を支出する場合を規定したものではないと解するのが相当であるが、債権者が債務者に対し他から譲受けた修繕費償還請求権を有する事実は債務者が本件物件を競争入札手続に付するに際しての下見においてこれを入札希望者に告げなかつたとしても何等競争入札手続を無効ならしめるものと云うことが出来ない。以上のようであるから債権者が本件仮処分により保全せんとする本案請求権は存在しないと云うべきである。よつて本件仮処分決定はこれを取消し本件申請を却下すべきものとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条仮執行の宣言につき同法第七五六条の二を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 内田初太郎)

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